我が国の自治体における文書管理の改善実態を,昭和30年代後半から見つめてきました。
当初,文書管理の改善とは,簿冊式整頓を改めて,ファイリング・システムに切り換えることでした。しかし,文書管理担当はファイリング・システムの知見を学ぶ機会も少なかったので,コンサルテーションをファイリング・キャビネット等の業者に任せました。安値で落札した業者にとっては,ファイリング・キャビネット等の物品販売が目的であり,コンサルテーションは販売促進の手段でした。そのコンサルテーションは,ファイリング・キャビネット等の取扱い説明のようなものです。したがって,こうしたコンサルテーションも,物品が販売出来る改善導入の段階が中心であり,高度な指導が求められる維持管理段階は物品の販売が激減するので軽視され,ほとんど行われていませんでした。その結果,多くのファイリング・システムは,導入終了とともに空中分解するのが常だったようです。今日でもそうだ,との声もありますが・・・。
一方で,文書管理を改善し定着させている成功事例も見てきました。成功事例に共通しているのは,まず文書管理改善に意欲をもつ有能な職員(改善推進者のこと,プロモーターといってもよい)がいること,そして改善導入よりも維持管理を重視していることに気付きました。更には,失敗事例と成功事例から,普遍性を抽象し個別性を捨象するという求心的な科学的手法を駆使することにより,文書管理改善理論を創案しました。この理論は,2004年の秋にシドニーで開催された文書管理に係る国際会議でプレゼンテーションしましたところ,改善のための三つの要件を内包する改善理論であるから,「クリスタル・トライアングル理論」(Theory of Crystal Triangle;CT理論)と名付けてはどうかと提案を受けました。以来,ADMiCは文書管理改善理論をCT理論と呼ぶことにしています。
CT理論の三つの要件とは,文書管理の
- 品質
- 改善指導方法
- 改善指導者
です。3要件が相互に機能し合っている三位一体論が,CT理論です。
文書管理の改善を成功させるためには,まず庁内に一人の有能な改善推進者がいることと,維持管理を重視することが前提であり,改善推進者がCT理論の3要件をどのように理解し,どう評価選別するかが肝です。評価選別するのは,次の三つの内容です。
- 高速検索性を確保し,真に職員に歓迎される高い品質の文書管理システムは,どれかベストか
- 全職員の参加を担保する改善指導方式は,どれがベストか
- 職員の文書私物化容認意識を払拭させるなど,説得力を有する改善指導者は,だれがよいか
実は,文書管理改善の仕事は,思うほど手間のかかる厄介な仕事ではなく,むろん職員の反感を買う嫌われる仕事でもないのです。改善推進者に問われているのは,どう手を出し,どう汗をかくかというよりも,どう考えどう選ぶかという智恵の出し方にほかならないのです。
こうして
- 文書管理システムの品質
- 改善指導方式
- 改善指導者
を選んだら,実際の改善指導は(3)の人を信頼して任せればよいと思います。そして,改善推進者は職員の目線で,住民の目線で,指導をチェックしていればよいのです。
文書管理改善を外部委託するとき,とかくこれまではどこの業者に出すか,どこが安いかということはあっても,CT理論の3要件に意を用いて,改善に着手した自治体は少ないようです。しかし,後者に成功事例はあっても,前者にそれを求めるのは無理です。
なお,ADMiCは,文書管理システムの品質は,更に①目的,②対象範囲,③管理原則及び④分類技法の4要件から構成されていると考えています。これら文書管理の「品質4要件」については,また別の機会に解説したいと思います。また,ADMiCは維持管理の重視することを前提にしており,具体には「維持管理五年原則」(これまでの「維持管理十年原則」を2010年度から短縮化の実証実験中です)のカリキュラムをもっています。ご関心のある方は,ここからお問い合わせ下さい。