経費は,改善目的の設定レベル並びに品質,改善指導方法及び改善指導者によって大きく異なります。
事例を紹介しましょう。職員数が150人弱で,改善レベルを職員の文書私物化容認意識の払拭を前提とし,文書の高速検索性の達成を目標とした自治体がありました。当該自治体では,改善期間を5年間とし,改善導入に1年半,維持管理に3年半をかけることにしました。計5年間に要する経費の見積を業者に求めましたところ,Aが400万円前後で,Bが4500万円前後で出してきたそうです。
改善目的を達成し得る品質を持っているか否か,改善指導方法と改善指導者が職員の意識を改革し得るか否か等で評価選別をし,かつ費用対効果を考慮した結果,当該自治体は経費の安いAを選ばず,Bと契約をしたそうです。
この事例は,改善を行う際,自治体が在るべき文書管理の姿を描き,費用対効果の観点から経費算定の適否を考えることの重要性を示唆しています。在るべき姿を構想すれば,改善レベルが設定できます。設定したレベルを達成できるかどうかを,業者が提案する品質・指導方法・指導者等で総合的に評価選別し,その上で費用対効果を勘案して判断することが肝要です。経費算定の適否は,業者が出す見積額が安いかどうかというよりも,改善レベルを達成することによる費用対効果で判断されるべきです。
これまでの経費算定は,業者にイニシァティブを握られていたように思います。安い見積書を出した業者が選ばれるのが普通ですから。ファイリングシステムの内容はどこの業者も同じで,指導方法も指導者も同じという前提に立っているのではないでしょうか。同じではないのですから,自治体は費用対効果をモノサシにしてイニシァティブをもつべきだと考えますが,いかがでしょうか。
具体的には,まず,文書管理の担当者が,自らの自治体における在るべき文書管理を構想します。そのためには,公文書管理に関する文献やセミナー・講演会の受講を動機付けにして在るべき姿の顕在化に挑戦します。次に,先進自治体に関する情報収集を行います。更に自ら先進自治体を視察し,実態把握をするとともに,経費等に関する情報提供を受けるようにします。最後に絞り込んだ業者に面談して,集めた情報の裏取りを自ら行う必要があります。問題がなければ,当該業者の経費算定額を一応の基準にして,業者選別の手順に沿って粛々と行えば良いと思います。
なお,文書管理の改善を定着させるために維持管理は必要不可欠です。これまで,導入に2年間,維持管理に8年間が必要だとする「維持管理十年原則」が理想的とされてきました。ただ,今日の厳しい財政状況を勘案するとき,期間を短縮せざる得ないことも現実です。冒頭の事例では,改善の定着を5年間に想定し,債務負担を組んだようです。
また,経費算定の際に,書庫の増設や改造が検討されるかもしれません。書庫の増設や改築は,事業費が大幅に増える要素になりますので,当初は,現在の書庫の有効利用で何とか対応し,ファイリングシステムが軌道に乗り,トップの理解が得られた後に書庫について事業化していく,というのが一般的です。