1. 文書管理の改善と文書の危機管理(リスクマネジメント)
1995(平成7)年1月17日に発生した阪神・淡路大震災の際には,自治体の庁舎も大きな被害を受けましたが,文書の危機管理の必要性・重要性が改めて確認されました。
むかし,ほとんどの自治体には「非常時持出し」と朱書きした保管庫があったものです。むろん,これには重要文書が入っており,非常時には,まずこれを持ち出すことになっていました。文書管理の改善で,事業継続に必要不可欠な文書を意識した管理(バイタル・ドキュメントマネジメント)をしておけば,災害発生時の対応も異なってくるはずです。
被災したある自治体の文書係長は,次のように述べています。
「被災して一番困るのは,何がなくなったかわからないことです。その意味で,最も重要なのは,日ごろの文書管理,ファイリングシステムの徹底です。どこに何があるか明確であれば,火災等によって文書が失われさえしなければ,たとえ文書が散乱したとしても,もとの秩序に復旧させることが可能です。」
むろん,災害時を想定して,情報救出隊を編成したり,文書の救済・修復計画(デザスター・プランニング)を用意したりしておくことも大切です。
2. 文書管理の改善と防災管理
文書管理の改善導入は,執務環境の改善が主目的ではありません。文書管理の改善を行った結果,事務室内が整然としてくるのです。しかし,執務環境の改善は,それだけのために行おうとしても,それは単発的にはできても,長続きするとは限らないでしょう。
文書管理の改善導入をキッカケに,背の低い保管庫に統一して,内容物の表示を徹底し,また保管庫などの上にも物を置かないよう,防災管理をも意識しつつ執務環境の改善を一気に行ってしまうことです。
その結果,背の高い保管庫に囲まれて仕事をしていたのが,事務室には1メートル程度の高さに抑えたキャビネット(文書の整理タンス)や保管庫だけとなり,その上には物を置かなくなるはずです。ですから,少なくとも,地震などの災害時に保管庫が倒れてその下敷きになる可能性は低くなります。また,これまで大量に事務室内にあった文書が整理され,ごく限られた文書のみが事務室内に残るので,床にかかる荷重も軽減されるはずです。なお,書庫内の文書棚については,床に固定するなど防災対策を施しておく必要があります。
そして,執務環境の維持管理を,文書管理の維持管理とタイアップして行うことです。そうすれば,整備された執務環境を長続きさせることができます。事実,こうした自治体は多いのです。防災管理は,文書管理の改善導入をきっかけとして,日ごろから執務環境を整備し維持管理することでよくなると考えてよいでしょう。