電子文書

Q1:現在の電子文書管理システムには,どのような問題がありますか。

電子文書管理システムを逸早く導入した自治体の担当者から,異口同音に次のような感想が聞かれます。「高いお金を出して導入したシステムがお荷物になっている」「せっかくのシステムを何とか使ってほしいと,利用促進を全職員に促すのが文書主管課の役目になっている」と。どうしてこういう事態になったのでしょうか。現在の電子文書管理システムには,次のような問題があるからです。

1. 利用者にやさしくない

現在商品化されている電子文書管理システムは,利用者にやさしくないのです。文書登録があまりに煩雑で,手間がかかり過ぎます。日々の文書管理はできるだけシンプルでなくてはなりません。人は優柔不断な存在ですから,たくさんの決断項目を最初に示されたら,前に進めません。したがって,最初の段階の入力はできるだけシンプルにしたほうがいいのですが,現在のほとんどのシステムはそうなっていません。

機能は豊富にあるのですが,使わないものが多いのです。市販の電子文書管理システムは,現行の文書管理の手間を省く等の省力化が検討されていないようです。開発段階において,文書管理の省力化志向が希薄であり,システム化志向が強すぎるようです。電子にするとここまではシステム化ができるということになり,機能が豊富になりすぎるのかもしれません。

2. 紙文書の管理ができない

すでに多くの職員が気づいているのですが,ICT化が進んで,紙の使用量はますます増大しています。その増大する紙文書を,現在の電子文書管理システムは管理することができないのです。一時,紙文書をすべてスキャンして電子媒体に変換するという方法も考えられたのですが,それは手間と費用対効果の点からあまりに非現実的な方法でした。電子文書管理システムを販売している大手の複写機メーカーの試算によれば,A4判1枚当たりのスキャン費用は,約12円だといいます。

紙媒体にも電子媒体にも,それぞれに優位性があります。使い勝手の面を考慮して,紙文書は紙(媒体)の優位性があるから使っているのであり,同様に電子(媒体)も電子の優位性があるから使っているはずです。紙の優位性を犠牲にして電子に媒体変換をし,紙文書を廃棄しなければならない積極的な理由はあまり示されていないようです。仮にスペースの削減のためだとしても,紙文書を廃棄してしまったのでは,紙文書の優位性は無くなってしまいます。

なお,情報を登載した媒体別の比率ですが,自治体の場合は約8割が紙文書だといわれています。その紙文書を管理しないシステムは,現実の文書管理から逃避しているといっても過言ではありません。

因みに,各府省庁の行政文書ファイルの媒体別内訳は,紙媒体が96.0%と大部分を占めており,電子媒体は3.8%となっています。これは,平成23年9月8日開催 公文書管理委員会(第10回)配布資料3「行政文書の管理状況調査について」表2の行政文書ファイルの媒体種別の内訳によるものです。

3. 私物化容認意識を払拭できない

すでに指摘してきたように,文書管理を適正に行うためには,その根本問題である文書の私物化を排除し,職員がもっている私物化容認意識を払拭しなければなりません。しかし,現在の電子文書管理システムでは,そもそもそのような文書管理の根本問題を解決する設計理念があるとも思えず,むろん解決できるものでもありません。むしろ,電子化することで,電子データや電子文書の私物化が増幅されることが懸念されます。

ご参考までに,「在るべき公文書管理の姿とは」をテーマにした今年度のADMiC賞懸賞論文の入選作は,いずれも電子文書管理システムを取り上げています。

1等
「ストップ,電子AKFシステム導入~公文書管理法施行直後の今,伝えたいこと」
江川 毅氏(沖縄県公文書館嘱託員)
2等
「公文書管理と電子文書管理システムの考察 ~行政文書ファイル管理簿と電子文書システムの機能について~」
落合和之氏(静岡県菊川市役所)

なお,表彰式,入選論文の口頭発表及び記念講演会は,10月4日(火)(10時~16時30分)に東京・内幸町の日本記者クラブ大ホールで開催されます。午後からの記念講演会では,町長や職員が津波の犠牲になった岩手県大槌町をはじめ、被災地の自治体の文書管理担当者らが「災害に立ち向かう公文書管理~文書管理係長の責務~」を統一テーマに講演します。公務員であればどなたでも参加(無料)できます。参加申し込みは,ADMiCまでメール(info@admic-akf.jp)で。 表彰式は終了いたしました。

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