公文書館法によると,公文書館には「歴史資料として重要な公文書等について調査研究を行う専門職員」を置くものとされています。このような専門職員(アーキビストと呼ばれる)が,歴史的等の価値の評価・選別を行うことになります。しかし,現在の自治体では,このような専門職員の数は極めて少ないのが実情ではないでしょうか。ほとんどの自治体が,専門的な評価・選別のための人的な体制をとっていません。
それでは,アーキビストのいない自治体では,どのようにして歴史資料を評価選別したらよいでしょうか。三つの方法が考えられます。一つ目は,文化財・市史編纂などを担当する部門。二つ目は,各原課。三つ目は,文書主管課。このうち,文書主管課については,次週述べることにして,最初の二つについて説明します。
一つ目の方法は,アーキビストまでの専門職ではないのですが,文化財・市史編纂などを担当する部門の一般職員が,専門家の助言を受けながら,毎年度,評価・選別するという方法です。熊本県のある市では,教育委員会のなかの文化振興課が,AKFを導入したときから,そのような任務を担っています。歴史資料館や公文書館はもっていませんが,そのようにして評価・選別した文書を,歴史資料専用の書庫を確保して収納しています。
具体的な作業ですが,各課で作成されるファイル基準表を見ながら評価・選別するという方法を採っています。保存期間満了となった個別フォルダのタイトルを一つ一つ見ながら,歴史的等の価値を評価するわけです。このファイル基準表での選別項目が蓄積して,一定の評価・選別の類型化が可能となります。
二つ目の方法は,各原課の職員による評価・選別です。これは,歴史的な価値を判断するのには,その文書の内容に最も詳しい当該原課の職員がふさわしい,という考えに基づくものです。この方法は,公文書管理法のガイドラインで採用され,新しい行政文書ファイル管理簿の記載事項に,「保存期間満了時の措置」という項目が追加されました。
具体的には,実際の事務事業を担当する職員が歴史資料を評価・選別することを想定し,移管された文書の歴史的な価値を評価することはアーキビストの役割としても,移管の必要性については,文書を作成または取得した職員が第一次選別を行うというものです。この方法なら,たとえアーキビストのいない団体であっても,歴史資料の流出に一定の歯止めがかかります。なお,将来的にアーキビストが確保出来れば,そこで第二次選別を行うことが可能になります。
なお,この方法では,原課の意識によって選別にばらつきが出ることもあるため,文書主管課が評価・選別の一応の基準を示す必要があります。例えば,島根県のある市では,合併による新市発足後,2年に渡って旧町村の書庫の整理を行いましたが,その際に,文書主管課が次のような評価選別のための通知を出して,作業の手引きとしました。
歴史的文書(アーカイブズ)を保存しましょう。
その時代の記録を後世に伝え残すことは,その時代に生きた者の責務であります。歴史的文書は,市民共有の財産として,我が市の歴史形成に大きく寄与するものです。行政文書としての保存期間を過ぎたものは廃棄することになりますが,その中には,歴史的文書(アーカイブズ)として保存すべきものが含まれているかもしれません。今回の書庫整理の作業中に,そのような歴史的文書と出会われたら,廃棄しないで保存しておいてください。
では,どのようなものを歴史的文書として保存すべきでしょうか。これは厳密に考えるとなかなか難しい問題です。しかし,今回は,おおまかに次のような基準を立てて,個々の判断については,現場での裁量におゆだねすることにしました。
その基準は,「後世に語り継ぎたい出来事や人々」です。
我が市の「まちづくり基本理念」のなかに,「ふるさとへの誇りと愛着」とあります。後世に語り継ぎ,わたしたちのふるさとを豊かに物語ることのできるような,そんな出来事や人々です。
具体的な例をいくつか挙げます。
古い地図
形状が変る前の写真・ネガ
大災害や大事故の記録
住民の喜怒哀楽の記録(祭り・イベント)
町が主体となって行った事業の記録及び記録写真
地域で住民が自主的に行った事業・運動の記録・名簿
功績があった人物の記録(褒章・表彰)
町の広報
議会便り